訪問歯科診療

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訪問歯科診療について

訪問歯科診療の対象となる方

訪問歯科診療はどなたでも受けれるわけではありません。対象となる方は「何らかの理由で通院が困難な方」です。この「何らかの理由」というのはほとんどの場合、いわゆる要介護の状態で「介護保険」を利用しているということです。介護保険を利用していない方でも、身体的・精神的な障害などの理由で通院が困難な方も、訪問診療可能な場合があります。詳しくは電話連絡でお問い合わせください。

 ※ 患者さんの状態によっては総合病院や大学病院をご紹介することもありますし、診断のために大きなレントゲン写真を撮影する場合などは一時的に通院をお願いすることもあります。

 

高齢者を取り巻く環境

日本ではいまのところ(2019.4月時点)は65歳以上の方を高齢者としていますが、75歳以上を高齢者とする提言が老年関連の各学会から出されています。現在の高齢者の身体状況や活動能力を科学的に検証したところ、20年前と比較すると5~10歳程度の若返り現象が認められたという結果に基づき、65歳以上の方も社会を支える側として認識してもらいたい、という見解だそうです。簡単に言うと健康な高齢者が増えているという喜ばしい結果です。

しかしその一方で、平均寿命と健康寿命の差がなかなか縮まらないことも事実で、人生の終盤のうち約9~12年は誰かの手を借りなくては生活がままならないというのが現状です。「誰かの手を借りて」という「誰か」には、ご家族はもちろん、ご近所の方もそうですが、ホームヘルパーさんや専門職の方々も含まれており、それぞれの地域みんなで協力して高齢者を支えよう、という仕組みが徐々に出来上がってきています。

       

具体的には、訪問看護師さん、訪問医師や訪問歯科医師、リハと略されることも多い作業療法士さんや理学療法士さん、ケアマネージャーさん、薬剤師さん、栄養士さんなど、地域の医療・介護・生活支援などの関係者が一丸となって高齢者を支援する「地域包括ケアシステム」が構築されつつあります。当院もこの地域包括ケアシステムを担う歯科医院として、訪問歯科診療を20年以上前から行っております。

(出典:厚生労働省 福祉・介護の分野 「地域包括ケアシステム」より)

特に「認知症」に関しては、令和元年(2019年)5月に政府から《認知症大綱》という施策の原案がとりまとめられ、国や地方自治体、医療・福祉施設のみならず、企業や、教育機関、ひいては社会全体で認知症に対する予防と共生を目指す方針が盛り込まれています。いまのところ認知症の治療方法はなく、発症前に予防することと、発症しても少しでも進行遅らせることが鍵となります。当院でも認知症に関しての勉強会に積極的に参加しており、地域包括ケアシステムを担う歯科医院として、今後も新しい情報などありましたら発信していく予定です。

          

 

介護保険について

介護保険は40歳以上になると加入する公的保険で、65歳以上の方には被保険者証が届けられます。40歳~64歳の方は、特定の疾患などが原因で要介護申請をしないと発行されません。デイサービスやデイケアを利用したい、車いす等介護用品の貸与を受けたいなど、各種介護サービスを利用する場合には、市区町村の介護保険担当窓口などで申し込みます。手続き後に「要介護認定」を受けると担当のケアマネージャーが決まり、利用者個人に合わせたケアプランの作成を行います。受けたい介護サービスはケアマネージャーさんに相談し、ケアプランに組み込んでもらわなければなりません。各種介護サービスを受けるには自己負担金が発生します。負担割合は1割~3割で、所得などに応じて個人個人異なります。また介護サービスを利用する場合は「要介護度」に応じたサービス上限額が決まっており、要介護度が高い人ほど上限額も高く設定されています。

少しややこしくなりますが、訪問歯科診療を受ける際には、医療保険証病院にかかる際の通常の保険証)と介護保険証要介護認定されると発行される介護保険証)のいずれも必要になります。通常の保険証は「医療保険」制度の医療サービスを受けるのに必要で、介護保険証は「介護保険」制度の介護サービスを受けるのに必要になります。一般的に、虫歯や歯周病の治療、義歯作成などの治療行為は医療保険で行い、口腔ケアや保健指導、ある種のリハビリ等は介護保険で行うことになります。一見すると同じような施術や保健指導でも、介護保険の方が医療保険よりも優先になるため、ほとんどのケースで介護保険が必要になります。ただし、特別養護老人ホームに入所している方や病院に入院している患者さんなどは、介護保険が利用できませんので、医療保険のみで治療も保健指導・リハビリも行います。詳しくは当院の訪問診療担当者までお問い合わせください。

 

訪問歯科診療の内容

訪問歯科診療では、むし歯の治療はもちろん、歯石取りや歯周病の予防、義歯が壊れたときの修理や調整・新しく義歯を作成するなど義歯に関すること全般、さらにグラグラする歯の抜歯など、歯科医院に通うのとほぼ同等の治療や口腔ケアが行えます。ですが訪問先で使える器具は限られていますので、レントゲン室で撮影するような大きなレントゲン写真は撮れませんし、「キュイーーン」と音が響く歯を削る機械も持ち込めませんので、効率よく治療を進めることが出来ません。そのため治療を進めるのに診療回数がかかったり、歯科医院で行うような細かい治療には向いていません。

特に抜歯に関しては、患者さんは多くのお薬を飲んでいることが多く、また健常者と比べて体調に気を配る必要があるため、グラグラしている歯を抜くくらいの簡単な抜歯は往診先で可能ですが、非常に見えにくい上の奥歯や親知らずしっかりと生え残っている歯を抜歯する際は、看護師さん医科の先生連携をとってから、歯科医院にて通院してもらい治療を行うことも必要になります。

また、部分的なレントゲン写真はポータブル機器で撮影可能ですが、上下の歯や顎全体を撮影する大きいレントゲン写真を撮影する際は、介助の方と歯科医院に通院をお願いすることもあります。

     

近年テレビや雑誌でもよく耳にするようになった「口腔ケア」ですが、口腔ケアは単なる歯みがきではありません。清潔にするのは歯だけでなく口の中全体です。プラーク(歯垢・歯くそ)には多くの細菌が潜んでいるのは知られてきましたが、舌の汚れ「舌苔(ぜったい)」も細菌の温床となっており、口臭の原因になることもあります。プラークの除去はもちろん、舌苔の除去や舌粘膜のケアを行うことは、むし歯や歯周病の予防のため以外にも、全身的な健康に大きく関わっていることが分かってきました。なかでも「口腔ケアをすることで誤嚥性肺炎の予防につながる」というはとてもインパクトがあるもので、プラーク(歯垢:細菌の塊)を誤嚥することで誤嚥性肺炎が引き起こされるというメカニズムを考えると、なるべく口腔内を清潔に保っている方が誤嚥性肺炎になりにくいことが明らかになりました。

     

(要介護高齢者に対する口腔衛生の誤嚥性肺炎予防効果に関する研究:米山武義、吉田光由ほか 日歯医学会誌2001より引用改変)

日本だけでなく、世界中の成人以降の多くの人が歯周病になっていますが、歯周病の病原菌(歯周病菌そのものや、歯周病菌の毒素)は、誤嚥性肺炎以外にも、脳血管疾患アルツハイマー型認知症糖尿病心血管疾患、など多くの病気と関連が認められており、口腔ケアを行うことは高齢者のQOL(Quality of Life:生活の質)維持・向上にはとても重要なこととして、近年ではどの高齢者施設でも口腔ケアを行っています。

        

加齢に伴う口腔機能の低下

オーラルフレイルとは

口腔機能とは「食べる:咀嚼(噛む)と嚥下(飲み込む)」「話す」「味覚を感じる」「初期消化」「表情をつくる」「ストレス発散」「免疫システム」などを含み、一般的には「食べる」ことと「話す」ことが大きな役割であるとされています。

毎日の食事は単なる栄養摂取だけではなく、家族や仲間と一緒に時間を共有する場でもあります。噛むと痛い、義歯が合わないなどお口にトラブルがあって食事が進まない、以前より食事に時間がかかる、子供や孫と同じものが食べられない、などの兆候があれば、オーラルフレイル(口腔機能が低下した状態)という、要介護の前段階である可能性があります。家族や仲間と一緒に食事をしていればこれらの変化に気付くかもしれませんが、おひとりで食事するようことが多くなると、オーラルフレイルに気付きにくく、しかも社会的な孤立(ソーシャルフレイル)にも繋がり、段々生きがいが感じられなくなってしまうケースも報告されています。

口腔機能の低下は、加齢に伴い誰にでも少しずつ起こるものですが、特に長年にわたり歯科受診をしていない方は知らず知らずのうちに口腔機能の低下が進んでいることがあります。某ビジネス雑誌のアンケート調査で、【リタイヤ前に健康に関して後悔していることは何か?】という問いに対して、「タバコをやめておけばよかった」「スポーツなど運動をしていればよかった」など、健康的な良い習慣をしていなかった、という回答が多いなかで、なんと1位は「歯の定期検診を受ければよかった」であると報じられました。

(プレジデントオンライン 「健康」の後悔トップ20 より引用改変)

この結果を年齢別で詳しくみると、歯の定期検診を受ければよかったと答えた人は、70歳以上では1位60歳未満では3位という結果で、歳を重ねるごとに歯の問題は深刻になっていることが分かります。

どうしてオーラルフレイルになるのか?

では、加齢に伴い口腔機能が低下する仕組みを少し考えてみましょう。みなさま口の中を鏡でよ~く覗いてみて下さい。歯・歯茎はもちろん、頬や舌、喉(のど)が見えると思います。

まず「食べる」機能を考えていく場合は「咀嚼:噛む」と「嚥下:飲みこみ」に分けていきます。

「咀嚼:噛む」

お口を開けてまず目にはいる歯と歯茎に関してですが、高齢になればなるほど健康な歯の本数が減っていくのはある程度はやむを得ないなことで、それに伴い硬いものが噛みにくくなります。それに加えて年齢を重ねると腕力や足の筋力が低下するのと同じく、口腔周囲の噛む筋肉も衰えます。さらに、歯周病が進行してしまうと、歯を支えている歯周組織が失われ、歯がグラグラしてきます。

このように「噛みにくい」のは歯の本数の減少筋力の低下歯周病などから起こります。では「咀嚼:噛む」に続いて「嚥下:飲みこみ」について考えてみましょう。

「嚥下:飲みこみ」

飲みこみで大事なのは、「歯」ではありません。なにより重要なのは「舌:した、ベロ」の存在です。舌は筋肉の塊なので、やはり加齢に伴って筋力が落ちると、舌の力も弱まります。舌の役割は非常に重要で、この世に生まれ落ちた瞬間から生きるために必死で舌を動かして哺乳します。離乳期を迎えても、舌が主体となって離乳食を取り込み、飲みこむ機能を獲得します。舌がなければ飲みこむことは出来ません。逆に、歯がなくても、舌があれば飲みこむことは可能です。上下とも総入れ歯の高齢者も多くいますが、入れ歯を使用せずに歯茎だけの状態で食事を摂るケースがままあります。といっても、まるっきり健常な人と同じ食事形態ではなく、ご飯は柔らかめ、おかずは咀嚼の必要がないような小刻みの形態であるなど工夫はしてあると思いますが、歯がなくても飲み込みはできるんです。離乳食も、歯が数本しかない状態で始めますよね。赤ちゃんは無意識で舌をうまく機能させて食事をしているんです。

もちろん、歯が不要であるということではありません。咀嚼(噛む)することで食べ物が小さく粉砕され、栄養素を取り込みやい形状にします。さらに舌や頬、顎が複雑に動くことで細かくなった食物と唾液が撹拌され、「食塊(しょっかい)」が形成されます。ここまでが「咀嚼」という行為で、あとは舌が喉に向かって波打つようにうねって動く(上方 → 斜め後ろ → 後ろ)事で食塊を喉に送り込み、「嚥下」の反射運動(ごっくん)が誘発されます。ですので、「嚥下」という行為(反射)そのものに、歯は直接関与していません。食塊が形成された後の主体は「舌」なんです。

ですので「食べる」ことに関する衰えは、年齢を重ねるごとに歯の本数が減るということに注目しがちですが、実は、舌の衰え飲みこみの衰えと直結している問題といえます。

余談ですが、、、

高齢者施設では食事の形態として、咀嚼する行為を省いた「刻み食」などを提供していることが多くあります。「食べにくい」という入所者の方への配慮ということになりますが、「噛めない」という訴えに刻み食という対応はありだと思いますが、入所者の方の訴えが実は「飲み込みにくい」であったとすれば、刻み食ではなく、食事形態であればトロミをつける、もしくは食事する時の体勢や、入所者さんの体調に気を配るのが吉ということになります。

話を戻しますが、歯の本数をなるべく多く維持する取り組みは近年どの歯科医院でも力を入れておりますし、歯科疾患実態調査で良い結果としてあらわれていると思います。しかし筋力や機能の衰えはゆっくりと進行するため気づきにくく、筋力トレーニングで鍛えることも困難です。口腔機能を、健康的な状態が保てる程度維持するというのが、これからの歯科医院における課題といえます。

「口の健康が長寿を支える」という認識をもっと広められるように、当院でもオーラルフレイル予防に対しての取り組みを継続してまいります。

詳しくは当院スタッフまでご相談ください。