睡眠と歯科医療
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睡眠について
そもそも眠りとは
睡眠は、私たちの健康と生活において多岐にわたる重要な役割を果たしています。以下に、現在わかっている睡眠の主な役割をまとめてみます。

(※ 画像生成AIで作成)
脳と身体の休息
睡眠中、脳や身体の活動が低下し、日中の活動で生じた疲労を回復
成長ホルモンの分泌
睡眠の初期段階、特に深いノンレム睡眠中に成長ホルモンの分泌が増加し、骨や筋肉の発達を促進します。これは「寝る子は育つ」という言葉の科学的根拠となっています。
脳内老廃物の除去
ノンレム睡眠中、脳内に蓄積した老廃物が効果的に除去されます。これには、アルツハイマー病に関連するアミロイドβタンパク質の除去も含まれ、認知症の予防に寄与する可能性があります。
記憶の定着と学習の促進
睡眠中、特にノンレム睡眠中のデルタ波や紡錘波、レム睡眠中のシータ波が、日中に学習した情報の記憶形成や定着を助けます。これは、学習内容の整理や長期記憶への移行に重要です。
免疫機能の強化
睡眠中に分泌されるサイトカインなどの物質が、免疫系の機能を高め、感染症や病気に対する抵抗力を強化するように働きます。
感情の整理と精神の安定
レム睡眠中に見る夢などを通じて、感情の整理やストレスの解消が行われ、精神的な安定にも寄与します。
エネルギーの節約
睡眠中は代謝活動が低下し、エネルギーの消費が抑えられます。これは、エネルギーの節約と体温の調節に役立っています。風邪をひいたときはぐっすり眠るのが必要というは理にかなっているわけですね。
ホルモンバランスの調整
睡眠中、コルチゾルなどのホルモンの分泌が調整され、ストレス応答や代謝機能の維持に重要な役割を果たします。寝不足が続くとうつ症状が発現することもあります。ストレスマネージメントの観点からも睡眠は重要であると言えます。
心血管系の健康維持
睡眠中、血圧や心拍数が低下し、心血管系の休息と回復が促進されます。これにより、高血圧や心疾患のリスクが低減されることが示唆されています。
このように、実に様々な役割がある睡眠ですが、まだ完全には解明されておらず、研究段階のところもありますので注意が必要ですが、子供の健全な成長発育には質の良い睡眠が必要であるということが分かるかと思います。
「いびき」に注意
いびきは睡眠の質低下のサイン
お子さんの成長期における良質な睡眠は、身体と心の発達においてとても重要です。「いびき」は、睡眠中に喉や気道が狭くなっていることで起こります。これは成人であればアルコールや薬物の摂取などで一時的に起こることもありますが、小児の場合は「習慣的な口呼吸」や「アデノイドや扁桃腺の肥大」によって気道が狭くなり、呼吸がしづらくなっている可能性があります。お子さんが「アデノイド顔貌」の特徴を持っている場合、特に注意が必要です。
いびきの悪影響
睡眠時の酸素不足
いびきをかくと十分な酸素が体に取り込めないことがあり、成長ホルモンの分泌や脳の発達が影響を受ける可能性があります。メリーランド大学医学部による研究では、特に脳の発育にとても重要な時期に睡眠呼吸障害によって酸素が十分に取り込めないと、ADHD(注意欠如多動性障害)と同じような脳の構造的な変化が起こることが分かりました。(http://dx.doi.org/10.1038/s41467-021-22534-0 研究論文の原文です)要約の一部を抜粋しますと、
「定期的に(週に3回以上)いびきをかく子どもは、脳の前頭葉のいくつかの領域で灰白質が薄くなっている可能性が高いことがわかりました。これらの領域は、高度な推論能力や衝動制御を司る脳の領域です。これらの領域の灰白質の薄さは、集中力の欠如、学習障害、衝動的な行動などの行動障害と相関していました。これらの行動障害は睡眠呼吸障害と関係があり、一晩中いびきをかくことで睡眠と呼吸が妨げられ、脳への酸素供給が減少するのです。睡眠呼吸障害のなかで深刻なものは、睡眠時無呼吸と呼ばれます。」(一部抜粋)
睡眠時のいびきと酸素取り込みに関しては、下記ページにも要約を載せています。(外部リンク:別ページで開きます)
慢性的な睡眠不足
いびきによって慢性的に眠りが浅くなることで、日中の眠気、活力や集中力が低下することがあります。学校や職場で十分に本来のパフォーマンスを発揮できないことにつながります。
十分な成長が妨げられる
睡眠中に分泌される成長ホルモンが減少し、身体の成長が遅れる可能性があります。低身長、夜尿症などは幼児から小児期における睡眠呼吸障害のとても重要な症状です。その後の人生にも影響を与える可能性があるので、たかだかオネショと思わず、医療機関の受診を検討したほうが良いかもしれません。
集中力や情緒の問題
日中の眠気や疲れから、学校での学習や遊びに影響が出ることがあります。本来のパフォーマンスが十分に発揮できないため、本来は出来るはずのことが頑張って取り組んでもうまくいかない可能性があります。
顔の骨格形成への影響
長期間のいびき(習慣的な口呼吸)が続くと、顔の成長発達にも影響を及ぼし、永久歯が正しい位置に生えないこともあります。アデノイド顔貌とも呼ばれる特徴的な顔つきは、下の顎が小さく狭くなるため、ガタつく歯並びになりやすいです。また、上の顎の成長が著しく悪い場合は、みかけ上の受け口(しゃくれ)になることも多く、成長してからの治療は困難なことが多いです。
睡眠歯科医療の可能性
乳幼児の睡眠
乳幼児の睡眠医療に関しては、海外では盛んに研究が行われ、その重要性が認められていますが、日本では残念ながらまだ充分に認知されておらず、子供らの睡眠と成長発育が脅かされているのが実情といえます。また、どの診療科にかかればよいか明確でなく、適切な診断や処置を受けることなく見過ごされていることが多いと言われています。
NPD(日本小児口腔発達学会)について
そんななか、2022年8月にNPD(Nippon Pediatric Development Society)日本小児口腔発達学会が設立され、歯科医療従事者が中心となり、看護師、理学療法士、言語聴覚士、助産師、保育士、薬剤師、スポーツインストラクター、柔道整復師、などなど多くのコメディカルの方が参加して、日々研究と勉強、啓蒙活動を行っております。
当院には、NPD認定口腔機能支援士である幸郎先生も学会や勉強会に参加して、子どもの将来を守るための情報交換や技術習得に力を入れております。


(※ 画像生成AIで作成)
こどもの睡眠呼吸障害とは
低年齢の子供は、睡眠の質が悪くても、眠いという訴えをすることはほとんどありません。遊び疲れて、夜更かしして、などの明らかな理由で眠いと訴えることはあっても、睡眠呼吸障害が原因で眠気を訴えることはほとんどないため、見過ごしやすいので注意が必要です。「いびき」「アデノイド顔貌」「覇気がない・意欲がない」などのサインが出ている場合は、睡眠の質がよくない可能性が高いと思われます。
小児期の睡眠呼吸障害の原因のそのほとんどが「鼻呼吸ができていない ≒ 口呼吸」という状態に由来するものと考えられています。NPD代表の井上啓介先生らが考案・提唱している「Root Gear モデル」という考え方によると、根本的な原因は「舌」「アレルギー」「遺伝」の3要素であると述べています。シンガポールの著名な歯科医師 Dr. Yue Weng Cheu先生は「Linguadontics : 根源的な舌」という考え方で国際的にご講演を続けており、多くの歯科医療従事者などの支持を集めています。
舌や口呼吸に関しては、詳しく幼児期からの成長発育(クリック・タップでページ遷移)で述べておりますので、ご興味があれがご確認ください。
空気の通り道:気道を考慮する
近年はCT機器が普及しており、気道の広さの測定が可能なCT機器もあります。気道が狭くなっていることや、顎顔面にアプローチして治療をすることで気道が広く拡大されていることなどが分かるとされていますが、明確な基準が設定されておらず、CT撮影のみでの診断は困難といえます。気道を考慮した治療のためには、CTのほかにも、X線企画写真、気道抵抗(鼻腔通気)を調べる検査、お顔や立ち姿の写真、臨床症状、親御さんからの情報など、とても多くの情報が必要になりますので、カウンセリング、資料収集が最も大事と言えます。

(※ 画像生成AIで作成)
いずれにしても、乳幼児期からのアプローチでなるべく早期に原因を考察して、正常な成長発育が行えるような適切な睡眠環境を与えてあげることが肝要と思われます。詳しくは口腔機能支援士、口育士、息育指導士の矯正治療担当医にご相談ください。
成人の睡眠医療
大人の睡眠トラブルでよく知られているものは、いびきや睡眠時無呼吸であると思われます。
特に閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA : Obstructive Sleep Apnea)に対して行われるものは、CPAP( Continuous Positive Airway Pressure:持続的気道陽圧法)やOA(Oral Appliance:口腔内装置)がほとんどになります。軽度なケースでは筋機能療法も有効なアプローチであるとされていますが、あくまで補助的な位置づけと考えられています。

(※ 画像生成AIで作成)
睡眠検査と診断
大人の睡眠呼吸障害に対しては、呼吸器内科やスリープラボなどで睡眠検査(PSG:polysomnography)を受ける必要があります。簡易のものと精密のものとありますが、専門医による判断で検査が行われます。
睡眠検査の結果、AHI(Apnea Hypopnea index:無呼吸低呼吸指数)の数値によって重症度が判定され、治療方針が決定されます。
AHI:5未満であれば正常とされ、AHI:5~15は軽症、15~30中等症、30以上で重症と分類されます。一般的にAHI20以上で日中眠気がある場合にはCPAPが処方され、終夜装着して就寝する必要があります。
AHIが30を超えると、合併症としての高血圧、脳卒中、心筋梗塞などの心血管系疾患の発症リスクが通常の約5倍に増加することが分かっています。単なる睡眠の問題にとどまらず、放置しておくと8年後の生存率は63%にまで低下することもあります。
成人のアプローチ
重症度によって異なりますが、前述のようにAHIが20以上で眠気がある場合はCPAPが処方されます。違和感が強くてCPAPが使用できないこともありますが、その場合は歯科医院でOA(Oral Appliance)を作成して、使用してもらうこともあります。我々歯科医師は睡眠呼吸障害の診断ができませんので、診断書や紹介状なしでOAを作成することはできません。詳しくは、スタッフにお尋ねください。
軽度の場合はOAを作成してMFT(筋機能療法)を歯科医院で指導してもらうことで改善が期待できるとされています。OA作成にはやや専門的な知識が必要になります。作ってからの調整(タイトレーション)がとても大事で、ただ作るだけでは効果が十分にあらわれないことがありますので、必ず作ってからフォローアップを受けるようにしてください。
いびきに関して
大人の睡眠呼吸障害として最も身近で気になる症状のひとつ「いびき」は、自分では気付きにくく、自身の睡眠の質が悪くなってしまうことはもちろん、ベッドパートナーやルームメイトの睡眠を妨げることもあり、社会的な関係悪化の原因にもなる問題となっています。「いびき」だけの時点では、あまり深刻に捉える人は少ないと思われますが、いびきは睡眠時無呼吸症の予備軍の状態であり、推定2,000万人がいびきをかいているとされています。さらにそのうち300~900万人が睡眠時無呼吸症であるとされています。
NightLaze®
「いびき」にだけ関していえば、のど周辺の筋肉の緩みがひとつの原因であるので、緩んだ筋肉や粘膜をひきしめることでいびきの改善に効果的なレーザー治療があります。当院にもFotona社のレーザー機器「LightWalker®」がありますので、このレーザーを使ったいびき改善「NightLaze®」を受けることができます。
Fotona社のNightLaze®についての説明はこちら(外部リンク:新しいページが開きます)
NightLaze®は保険適応外の施術になりますので、自費診療となります。1回だけのNightLaze®では効果は限定的ですが、1回目だけお試し価格の費用を設定しております。通常は1回33,000円の施術になりますが、初回のみお試し価格で半額の16,500円で受けられます。
また、NightLaze®は3~4週間ごとの照射が効果的とされており、4回目くらいから次第にいびきが少なくなったとの声が多いようです。そこで当院では「いびき改善プログラム」として、4回セットで通常132,000円のところを、、110,000円 でご提供します。お気軽にご相談ください。
※ NightLaze®はあくまでも「いびき軽減」に対する治療であって、睡眠時無呼吸症に対する効果は確認されていませんので気を付けて下さい。良く分からない、詳しく聞きたいなどの場合はスタッフまでお尋ねください。
